1. 2月20日 宜野座先生担当

2月20日 宜野座先生担当

最終更新日:2017年03月07日

抄読会

Inflammation Increases Neuronal Sensitivity to General Anesthetics
Avramescu S, et al: Anesthesiology 2016 ; 124 : 417-27
 
【はじめに】敗血症を代表とした全身炎症により麻酔薬が神経の過剰抑制をきたすことが、人や動物の脳波を観察した研究で明らかとなっている。その要因として炎症反応が神経表面のシナプス外GABA受容体を増加させることが一因と考えられている。前炎症性サイトカインであるIL-1βは海馬細胞表面のシナプス外GABA受容体を増加させ、神経興奮を減衰させ、海馬記憶機能低下をもたらすことが。免疫染色で海馬組織を顕微鏡下で観察したこれまでの研究で報告されている。
著者らは炎症反応が神経表面のシナプス外GABA受容体のアップレギュレーションをもたらし、海馬、大脳皮質、視床、脊髄等の神経ネットワークに抑制的に働き麻酔作用の過剰発現をもたらすと考えin vivo、in vitroの実験を行った。
【方法と結果】
実験1.マウスの海馬と脳皮質を摘出し炎症の模倣としてIL-1β(60ng/ml:マウス敗血症モデルでの脳内濃度)もしくは生食を刺激3時間前より添加、その後GABA:0.5μM(通常の脳脊髄液GABA濃度)を添加し培養ニューロンの電位を記録した。その結果IL-1βは海馬と皮質においてGABAによる神経細胞の感受性を高めることが示された。
実験2.実験1同様にマウスの海馬と脳皮質にIL-1βによる添加処理を行い、エトミデート(静脈麻酔:3μM=通常使用時の血中濃度)、イソフルラン(吸入麻酔:250μM=1MAC)を添加し培養ニューロンの電位を記録した。その結果エトミデートは用量依存性に神経細胞の感受性を高めた。一方イソフルランは2MAC以上から神経細胞の感受性を高めるという異なった結果となった。
実験3.マウスに少量のLPS(:Lipopolysaccharide)を3時間前に腹腔内投与し、IL-1βなどの前炎症性サイトカインを惹起し、正向反射消失時間、尾逃避反射消失時間、恐怖条件付け学習における反応をエトミデートまたはイソフルラン投与下の変化とともに観察した。LPS投与群ではエトミデート、イソフルランいずれの薬剤も正向反射消失までの時間を有意に短縮させた。
尾逃避反射消失時間はエトミデート投与で有意に短縮したがイソフルランでは両者に有意差は認めなかった。恐怖条件付け学習においてマウスはエトミデート投与にかかわらず学習行動が認められたが、LPS投与群とコントロール群の相互作用は弱い結果となった。
【まとめ】
本研究の結果、LPSはGABAA受容体を介した麻酔作用の増強をもたらすことが示唆された。その機序として、生体で炎症反応はシナプス外GABA受容体の感受性を増加させることにより、麻酔作用を増強させるためと考えられる。麻酔薬による意識消失は主にGABAA受容体を介した反応であり、不動化はGABAA受容体とそれ以外の複数の神経伝達を介した反応と考えられる。恐怖条件付け学習の結果より、恐怖体験に伴う音刺激は比較的麻酔薬が作用しにくいことが示唆された。また本研究では炎症反応下において吸入麻酔薬のMACが変化する可能性が示唆された。
【方論文読了後の私見】
近年、敗血症のメカニズムが少しずつ解明されつつあり、炎症反応とそれに伴う生体反応が分子レベルで明らかになってきている。今までに解明された知見はおそらく全体の中の一端であり全体像を未だ把握しえないのが現状であろう。しかしこれらの知見をもとに敗血症のベクトルのようなものが示された。2016年に提唱されたQuick SOFAはその一つであろうと考えている。Quick SOFAは血圧、呼吸、意識の3項目の2項目以上を敗血症と定義しているが、今回私は意識という点に注目した。炎症性サイトカインは中枢神経系に作用し麻酔の効果発現に影響を与える。臨床医であれば少なからず肌で感じていたと思うが、敗血症患者の麻酔は循環動態の変動を伴うことが多く、これまで麻酔深度を中心としたディスカッションをする機会が少なかったように思う。今後の研究を注視するとともに、自分自身、敗血症患者の麻酔、そして治療に関して何か方向性をもてるように歩んでいきたい。