1. 2018/12/3 宜野座先生担当

2018/12/3 宜野座先生担当

最終更新日:2019年01月10日

抄読会

Neurologic Complications of Unprotected Transcatheter Aortic Valve Implantation
 (from the Neuro-TAVI Trial)

Lansky AJ et al: Am J Cardiol 2016 ; 118 :1519-1526
 
【はじめに】
脳卒中は心疾患治療で最も重篤な合併症の1つである。TAVIにおいては術者の熟練、弁自体の改良により、近年、術後30日以内の脳卒中は2%未満との報告が一般的である。一方外科的AVR(SAVR)後の患者を神経内科医が評価したところ17%に神経学的異常が指摘され、TAVIにおいても同様に15-28%の患者に神経学的異常が指摘されている。
TAVI術後患者の脳を拡散強調MRIで評価した米国外の研究では 68-100%で異常所見を認めたとの報告がある。このMRIでの異常所見は将来の認知機能障害との関連性が考えられ、認知症の発症リスクは2倍、将来の脳卒中のリスクは3 倍高まると考えられている。本研究は商業用TAVI弁を用いてTAVI術後のMRI異常と神経学的異常の関連性を調査した前向き研究である。
【対象と方法】
研究期間は2014年10月-2015年5月、米国5施設での前向き多施設研究(米国初)、SAVRの高リスク群で、商業用TAVI弁(SAPIEN/XT or Core Valve)を用いてTAVIを施行し術後4±2日でMRI(拡散強調)撮影を行い異常所見の有無と数、大きさを測定し神経学的評価項目との関連を比較検討した。急性心筋梗塞、6ヶ月未満の脳卒中、臓器移植後、高度腎機能障害等を基礎疾患に持つ患者は除外した。
神経学的評価項目:術前、退院時、術後30日の3時点でのNIHSS、mRS、MoCA、Digit Symbol Substitution、Trail Marking test A、B
主要評価項目: MRI、脳卒中、神経学的評価の関連性
2次評価項目:Valve Academic Research Consortrium-2:VARC-2定義によるTAVI合併症
(NIHSS:modified NIH stroke score、mRS:modified Rankin scale、MoCA:Montrial congnitive assessment→いずれも神経学的評価法)
VARC-2定義:TAVIの真の合併症の頻度を明らかにするために作られた定義。この定義では症状を有する脳卒中とTIAがTAVIの合併症と定義されており、認知機能障害は定義上、合併症に含まれないことに注意。
【結果】
・患者背景:平均年齢83才、NYHAⅢ/Ⅳ81%、糖尿病、高血圧、高脂血症などの合併症併存87%、心房細動合併29%であり、全身麻酔65%、BAV施行90%、TEE施行95%、DAPT施行は約65%であった。SAPIEN使用66%、Core Valve使用34%であった。(Table 1)
・MRIによる評価:77%(34人/44人)の患者で施行。うち94%の患者で異常所見を認めた。
平均10.4 ±15.3個の異常領域を認めた。異常領域1つの平均領域は49mm3、最大領域の平均123mm3 、全領域の平均は 295 mm3 であった。(Figure 2)
・画像所見と神経学的所見の関係:MRIで94%の患者に異常所見を認めた。一方VARC- 2定義に合致する脳卒中は6%、運動障害が残る患者は2%であった。
神経学的所見で評価すると退院時NIHSSの低下を20%に認め、30日では15%となった。
59%に退院時MoCA もしくはNIHSSの低下を認め、30日では40%となった。脳卒中患者は認知機能の評価が不能となり得るため実際はもっと高い可能性がある。(Figure 3)
【考察】
・PARTNER trialは高リスク群AS患者のTAVIとSAVRを比較し、5年生存率は変わらす、脳卒中は30日でそれぞれ5.5% VS 2.4%、1年で8.3% VS 4.3%であった。6年後に行われた、PARTNER 2A trialは中等度リスク群AS患者のTAVI後脳卒中は30日で3.2%であった。
・VARC-2は脳卒中の定義は症状を有する障害と定義しているが、神経内科医は神経学的所見から早期脳卒中は15-28%程度発生すると報告している。本研究の結果22.6%にTAVI後の認知機能障害が発生し、認知機能障害の発生は画像所見の異常を伴うことを明らかにした。
・TAVIの普及と症例数の蓄積により、治療適応が拡大され、近年は低リスク患者にもSAVRと同等の治療効果という報告もある。しかしヨーロッパのデータと比較して本研究では米国の商業用TAVI弁での神経障害(認知機能障害)の発生は高いことが判明した。症例数が少ないためさらなる検討を要するがTAVIの適応の過剰拡大には神経学的予後という見地からは注意を要する。
・動脈の解剖学的特徴、(例えば動脈の石灰化、弁の性状)など、神経学的予後を規定する因子を今後さらに検討する研究が必要である。
 
【本論文読了後の私見】
・近年、低侵襲手術は医学界の大きな流れとして麻酔科領域にも少なからず影響を与えている。心臓外科領域ではTAVI、MICS、ダビンチ(MVP、CABG)など低侵襲手術が取り入れられ、それに応じて麻酔法も工夫をしなければならない。個人的には我々が工夫をすることで患者さんのメリットが大きくなれば喜ばしいことであるが、低侵襲手術のもたらすメリット、デメリットをしっかり吟味する必要があると考えている。心臓血管外科麻酔学会でもTAVIの麻酔法に関して、局麻派と全麻派でディスカッションするセッションは満員である。それだけ真剣に患者さんに良い医療を提供したいという麻酔科医が多い証拠であると思う。近年、High volume centerを中心に局麻下のTAVIの良好な成績が報告されているが、本論文ではTAVI患者の94%に画像上の異常所見を認める結果となり、個人的には非常に高い数字であるという印象をもった。TAVIに関しては麻酔法のみならず、効果的な脳保護など集学的なアプローチで医療の質を向上できるよう今後の研究結果を注視していきたい。