2019/6/24 阿部先生担当

最終更新日:2019年07月29日

抄読会

Requirement of Perioperative Stress Doses of Corticosteroids 
A Systematic Review of the Literature
Arch Surg. 2008 Dec;143(12):1222-6.
 
背景・目的
長期ステロイド投与患者はHPA系が抑制されていると推定される。周術期に追加ステロイド投与を行わないと副腎不全をきたすと信じられている。1952年にFraserらが、ステロイド投与患者の整形手術後の低血圧での死亡を報告した。また1953年にLewisらが同様の報告をした。しかし、いずれも、血行動態、心電図、コルチゾールなどのデータが欠如しているため、本当に副腎不全で死亡したのかどうかは不明確であった。にもかわらず、それらの報告をもとに、ステロイド投与患者では周術期にステロイド追加投与をされるようになった。長期ステロイド投与患者では、周術期にストレス用量のステロイドがルーチンで追加されるようになったため、実際、副腎不全が本当に起こるのかを知ることは難しい。KehletとSalemによるレビューでは、副腎不全によると思われるステロイド投与患者の周術期の低血圧や死亡は3症例しか報告されていない。ゆえに、不要な周術期のステロイド追加投与をされている患者が多い可能性がある。本研究は、周術期のステロイド補充療法の最適なアプローチを決定するために、文献を批評的にレビューした。
 
方法
選択された論文は、①ストレス用量のステロイドvsプラセボの無作為化試験または②ストレス用量のステロイド非投与の前向きコホートであった。検索ソースは、MEDLINE、EMBASE、Cochraneで、「perioperative care [explode] or perioperative or surgery [explode] and adrenal cortex hormones [explode] or corticosteroids.」とされた。検索期間は1996年1月~2007年7月で、抽出したデータは、研究デザイン、研究サイズ、外科的処置、術前のステロイドの投与量と期間、副腎機能検査結果、ステロイド投与レジメン、ステロイドによる血行動態的影響であった。
 
結果
9文献(RCT2つ、コホート研究7つ)が条件を満たし、315患者が含まれ、389件の手術が行われていた。RCTでは常用量ステロイドに加え、ストレス用量のステロイド追加とプラセボ追加が行われた。2つのコホート研究では、手術の18時間前または36時間前に投与を中止された。5つのコホートでは、常用量のステロイドのみを投与された。GlowniakとLoriauxの報告では17人のACTH試験で二次性副腎不全と診断された外科手術患者において、ストレス用量のステロイド群と常用量のステロイド群で解析したが、術前術後に大きな血圧の差はなかった。Thomasonらの報告は、局麻で歯肉切除を受けた20人の臓器移植患者で、各々2回の歯肉切除を受けており、常用量のステロイドに加え、100mgのヒドロコルチゾンを受けたときと、プラセボを受けたときを比較し、血圧に有意差なく、副腎不全を示唆する所見もなかった。Jasniらは、41人の滑膜切除を受けたRA患者で21人はステロイド投与中、20人はステロイド非投与の患者を解析した。ステロイドは手術18時間前に中止(1例は48時間前) 、術後6時間で再開した。ステロイド投与患者の5例は術前のHPA試験が正常であった。しかし手術侵襲に対する血中コルチゾールレベルの上昇は、ステロイド常用群で有意に低かった。しかし、術中、術後の血圧には両群に有意差はなかった。48時間前にステロイド投与を中止された1症例のみ、術中に低血圧をきたしたが、ヒドロコルチゾンの静注に速やかに反応して改善した。KehletとBinderは、104人のステロイド投与中の手術患者で、ストレス用量のステロイド追加を行わず、常用量のステロイドは術前36時間前に中止し、小手術では24時間後、大手術では72時間後にステロイドを再開し解析した。大手術患者では、コルチゾールは皮切から1時間後にベースラインと比較して最大となり、53%では、コントロールと比較し、反応が悪かった。7例で低血圧を認めたが、自然にまたは輸液で改善し、ショックバイタルの患者は認めず、低血圧も短時間(20分以内)で改善した。術後のコルチゾールレベルと低血圧の関連はなかった。小手術患者の30%で、コルチゾール上昇が乏しかった。重度の副腎機能障害のあった1例で術中低血圧をきたしたが、ヒドロコルチゾン50mgと輸液に反応した。Shapiroらは、ステロイド投与中の13人の同種腎移植患者で、常用量のステロイド継続した結果を解析し、46%でHPA系の抑制を認めたが、副腎不全の症例は認めなかった。Brombergらは、ステロイド投与中の同種腎移植患者での外科手術40人で、常用量のステロイドのみ継続した患者を解析し、62%でHPA系抑制を認めたが、副腎不全の症例は認めなかった。また、Brombergらの追試では、ステロイド投与中の同種腎移植患者での外科手術52例で、いずれも常用量のステロイド投与のみを受けた患者を解析したが、副腎不全はみとめなかった。Friedmanらは、整形外科の大手術を受けた28人のステロイド投与患者で、常用量のステロイドのみ投与された患者を解析し、いずれも、副腎不全はきたさなかった。またコルチゾールの分泌はほとんど(20例(71%))で反応性に上昇できていた。Mathisらは、腎または膵腎移植レシピエントで外科的リンパドレナージを受けた患者で、20例は周術期ストレス用量のステロイド投与をうけ、38例ではうけずに解析したとこと、いずれも予後に差はなく、副腎不全も認めなかった。
 
コメント
2つのRCTでは、ステロイドのストレス用量群と常用量群で血行動態の差は認めなかったが、この結果は、他の5つのコホートで、常用量のみのステロイド投与で、副腎不全が生じなかったことにより支持される。また、2つのRCTでは、2例で副腎不全によると思われる血圧低下を来したがステロイド投与に速やかに反応しているが、その患者らは各々、手術の36時間前と48時間前にステロイドを中止されており、長期ステロイド治療患者では、ストレス用量のステロイド投与は必要ないが、常用量のステロイド投与は必要であることを示唆する。さらにこれらの患者は、ACTH試験で異常を認めたが、コルチゾールの分泌能には問題がなく、このことは、生理的ストレス要求は、内因性のコルチゾール分泌の増加と、常用量のステロイドの組み合わせによって満たされていることを示唆する。この解析での研究は、サンプルサイズが小さいという制限があるが、ステロイド長期投与によりHPA系が抑制されている患者では、外因性ステロイド投与+内因性ステロイド分泌により手術侵襲へのストレス要求に耐えうることを示唆する。副腎機能検査では、臨床転機を予測することは難しく、治療を決定するには検査自体の感度が高すぎると考えられた。以上より、ルーチンのストレス用量のステロイド投与の追加は不要であると考えられる。しかし、麻酔科医、外科医、集中治療医は、患者が副腎抑制用量のステロイドの内服をしていることが分かれば、周術期は、血行動態のモニタリングを行い、難治性低血圧の際には、ヒドロコルチゾンを投与する必要がある。ここでの議論は、原発性HPA抑制患者に対してステロイド投与を受けている患者には適応されない。なぜなら、これらの患者は、ストレスに対し、内因性コルチゾールの産生ができないと考えられるからであり、全身麻酔で大手術を受ける際の、コルチゾール分泌は75-150mg/day、小手術では50mg/day程度と推定されることから、術中50mgのヒドロコルチゾンの投与を受け、大手術なら48-72時間は8時間毎に50mgの投与を受けるべきと考えられる。
 
結語
ステロイド治療を受けている患者が手術を受ける際には、ルーチンのステロイドのストレス用量の追加投与は、常用量のステロイド投与を継続している限りは、必要がないと考えられる。また、副腎機能検査は感度が高すぎることと副腎不全の発生を予期しないことから必要がないと考えられる。ただし、一次性のHPA抑制のために、ステロイド治療を受けている患者においては、ストレス用量のステロイドの追が必要である。