2020/1/27 野口先生担当

最終更新日:2020年01月29日

抄読会

オフポンプ冠動脈バイパス手術後の術後体温と全死因死亡率との関連:後ろ向き観察研究


Anesthesia & Analgesia. Publish Ahead of Print, SEPTEMBER 18, 2019
 
【はじめに】
周術期の低体温は様々な合併症と関係がある(創部感染、出血量の増加、心筋虚血)。これまで低体温と死亡率の関連は、心臓手術以外では敗血症を伴う高齢者や外傷患者でのみ報告されている。On-pump CABGでは人工心肺に伴う炎症反応による高体温が問題となるのに対しOPCABでは低体温が問題となる。心臓手術を受ける患者は高齢で合併症が多く、このことも低体温のリスクである。これまで心臓手術後早期の低体温と院内死亡率との関係を調べた研究はあるが、(より長期の)全死因死亡率との関係を調べた研究はない。本研究ではOPCAB後ICU入室時およびその後の体温変化と全死因死亡率との関係を調べた
 
【対象】
・ソウル大学病院で2006年3月~2016年12月に行われた全てのOPCAB症例1860例
・電子カルテのデータを後ろ向きに検証
・胸骨正中切開、グラフトはLITA or SVG、単一執刀医
・退院後1,3,6か月後に外来でフォロー、その後は3-6か月おき
 
【周術期体温管理とデータ収集】
・術中はBlanketrolⅡ(加温機能付きマットレス)、加温された輸液、対流式温風装置を頭部、肩周囲に使用し体温保持
・術中の体温は食道温を持続測定
・術後はICUへ移動後、温風式加温装置(Bair Hugger)で毛布の下から加温
・37℃を超えた場合は加温を中止
・術後の体温測定はICU入室時に担当看護師が行い、その後は1時間おきに測定
・一般病棟へ帰室後は担当看護師が4時間おきに測定
・測定部位はいずれも鼓膜温
・術前、術中、術後3日目までの体温データを収集
 
プライマリーエンドポイント:OPCAB後の全死因死亡率
セカンダリーエンドポイント:新規発症の心筋梗塞、何らかの再血行再建、院内死亡率
 
【統計】
・ICU入室時の体温に基づいて以下の4グループに群分け
      ・ 中等度から重度の低体温<35.5℃
       ・ 軽度の低体温35.5℃-36.5℃
       ・ 正常体温36.5℃- 37.5℃
       ・ 高体温≥37.5℃
 
・コックス比例ハザードモデルを使用し、ICU入室時の体温と全死因死亡率との関係を評価
・術後ICU入室時に測定された体温と術後3日間の平均体温に従って上記4つのカテゴリーに分け、術後早期の体温変化と全死因死亡率との関係も評価
 
【結果】
・146例が体温データの不備で除外(合計1714症例)
・ICU入室時の体温は33.4℃~38.7℃(36.5±0.7℃)
     ・ 中等度から重度の低体温<35.5℃ :n = 120
       ・ 軽度の低体温35.5℃-36.5℃ :n = 602
       ・ 正常体温36.5℃- 37.5℃ :n = 898
       ・ 高体温≥37.5℃:n = 94
 
患者背景(Table1,supplemental table1)

・低体温群で正常体温群と比べDM、CKDが多く、Ht、アルブミンが低かった
・緊急手術の割合、術後昇圧薬の使用も低体温群が多かった
 
ICU入室時の体温と死亡率 (Figure1)

 
COX比例ハザードモデル(Table2―Model1)

正常体温と比較した全死因死亡の調整ハザード比は
 ・中等度から重度の低体温群で2.246(95%CI、1.579–3.195; P <.001)
 ・軽度の低体温群で1.451(95%CI、1.124–1.873; P = .004)
 
COX比例ハザードモデル(Table2―Model2)

正常体温と比較した全死因死亡の調整ハザード比は
 ・中等度から重度の低体温群で2.030(95%CI、1.407–2.930; P <.001)
 ・軽度の低体温群で1.445(95%CI、1.113–1.874; P = .006)
 
ICU入室時の体温と死亡率の関係(3次スプライン曲線、Figure2)


術後の体温変化と死亡率 (Figure3)


COX比例ハザードモデル(Table 3―Model 1)

正常体温-正常体温群と比較した全死因死亡の調整ハザード比は
 ・低体温-低体温群で2.846(95%CI、2.079–3.897; P <.001)
 ・正常体温‐低体温群で1.790(95% CI, 1.138–2.816; P = .012)
 ・低体温‐正常体温群で1.435(95% CI, 1.090–1.890; P = .015)
 ・低体温‐正常体温群は低体温-低体温群よりリスクが低い(HR 0.474; 95% CI, 0.345–0.651; P < .001)
 
COX比例ハザードモデル(Table 3―Model 2)

正常体温-正常体温群と比較した全死因死亡の調整ハザード比は
 ・低体温-低体温群で2.274(95% CI, 1.634–3.167; P < .001)
 ・正常体温‐低体温群で1.796(95% CI, 1.122–2.867; P = .010)
 ・低体温‐正常体温群で1.435(95% CI, 1.090–1.890; P = .015)
 ・低体温‐正常体温群は低体温-低体温群よりリスクが低い(HR 0.631; 95%CI, 0.453–0.878; P = .006)
 
【考察】
本研究では、術後の体温とOPCAB後の全死因死亡率との関連を調査した。術直後の低体温の発生率は高く、OPCAB後の全死因死亡率と有意に関連していることが分かった。術後最初の3日間に正常体温を回復した患者は、全死因の死亡のリスクがしなかった群と比較して低かった。
非心臓手術患者で実施された最近の研究では、周術期の低体温と院内死亡または心筋傷害との関連はみられていないが、CABG患者では院内死亡率の増加との関連が報告されている。On pump CABG患者でICU入室時の体温が<36℃は36℃以上の場合よりも院内死亡率が高かった。OPCAB患者でも同様の結果が報告されているが、その研究での体温の定義は、低体温34.5℃‐36℃、軽度の低体温<36℃で、いずれも体温の基準が本研究より低かった。本研究の結果から、軽度の低体温(1℃未満の低下=35.5℃〜36.5℃)でさえOPCAB後の全死因死亡に関連していることが分かった。
正確なメカニズムは不明だが、周術期の低体温は、OPCAB後の心合併症を増加させる可能性がある。低体温による血管収縮は、後負荷の増加とアドレナリン応答の強化と相まって、低体温患者の心合併症の発生に寄与する可能性がある。実際、周術期の低体温は心筋虚血および不整脈と関連していることをいくつかの報告が示している。さらに、低体温による術後のシバリングは、代謝率を高めることにより、心筋虚血をさらに悪化させる可能性がある。今回の研究では、術後死亡の原因としての虚血性心疾患の割合は、低体温患者で23.6%(39/165)、正常体温患者で21.8%(26/119)で有意差はみられなかった。低体温のこれらの負の影響として、昇圧薬の使用頻度が増えた可能性がある(Supplemental Table 1)。
Hannanらの以前の研究では、低体温と高体温の両方がOPCAB後の院内死亡率の増加と関連していた。術後の高体温は、手術に対する初期の炎症反応を反映している可能性がある。周術期の高体温は酸素需要が増加し、神経障害を悪化させるかもしれない。これまでの研究同様、本研究でも術後早期の高体温は院内死亡率を増加させたが、全死因死亡率との関係は有意ではなかった。
術後最初の3日間に正常体温を回復した患者は、低体温のままであった患者よりも全死因死亡のリスクが低かった。患者がICU入室時に正常体温であった場合でも、術後最初の3日間の低体温により、死亡のリスクが増加した。最も悪い結果を示した低体温-低体温群の体温は術後12時間の平均が35.5℃以下であった(Supplemental Figure1)。したがって、今回の結果は低体温自体の悪影響を示すと同時に、低体温患者の正常体温の回復のための術後の厳密な体温管理が臨床的に重要であることを示唆している。
 
【制限事項】
・レトロスペクティブ研究
・術後早期の低体温が死亡率に影響するメカニズムが不明
(低体温が原因なのか、何らかの代謝異常の結果低体温になるのか)
・鼓膜温はプローブの位置によっては過小評価される
・OPCAB症例のみの結果で、on pump症例には当てはまらない
 
【結語】
・軽度の早期術後低体温でさえ、OPCAB後の全死因死亡率の増加と関連していた
・術後に正常体温を回復した患者は、回復しなかった患者と比較して全死因死亡のリスクが低かった