1. 2020/10/5 宜野座先生担当

2020/10/5 宜野座先生担当

最終更新日:2020年10月29日

抄読会

Vasoactive-inotropic score and the prediction of morbidity and mortality after cardiac surgery( Koponen T et al. Br J Anaesth 2019; 122: 428-436 )
 
ICU入室患者は、疾患の重症度と死亡率を判定するためのいくつかのスコアリングシステムがあり、SOFA、SAPS/、APACHEなどが代表的である。しかしこれらは心臓手術の患者のために発達してきたわけではないため、心臓手術患者の予後予測には使用されてこなかった。心臓手術患者周術期の合併症と死亡率を予測するスコアリンクシステムとして術前のデータを用いたEuroScore、STSスコアがある。
これまでの先行研究により、 高いVISは小児心臓血管外科手術後の予後不良因子とされており、特にICU入室後24時間以内のVISmaxの高値が最も適切な予後予測因子と考えられてきた。
Vasoactive-inotropic score(VIS)は心血管系への薬理学的サポートの総和を示している 。ドパミン(γ)+ドブタミン(γ)+10×ミルリノン(γ)+50×レボシメンダン(γ)+100×ノルアドレナリン(γ)+100×エピネフリン(γ)+1000×バゾプレッシン(γ)と定義されている。
高いVISは小児敗血症患者においても予後不良因子の1つと考えられている。成人群においての評価は確立されていない。本研究ではVISmaxは成人の心臓手術の予後で短期・中期的に予後不良因子と仮定し、VISmaxは成人の心臓手術の予後を観察研究した。またこれまでICUで使用されているSOFA、SAPS/、APACHEとVISmaxを比較し成人の心臓手術における予後因子としての有用性を比較検討した。
方法:フィンランド北サボ病院地区の倫理委員会の承認を得た。フィンランドのクオピト大学病院(ICU26床)の単施設で2010年1月-2014年7月の後方視的研究を行った。対象疾患は成人心臓手術でGABG、弁置換、弁形成、ASD、VSD、心内腫瘍、CABG±弁置換±大血管手術としステント手術、TAVIなどの血管内治療手術は除外した。
治療プロトコール:心臓手術後にICUへ入室した患者でHb 8.0 mg/dL以下ではRBC、PTINR < 1.5以上ではFFP、Plt < 5.04/ml以下もしくは術前に抗凝固療法ではPCの輸血が行われた。後方研究なので決められた治療プロトコールはないが、施設の大まかなプロトコールは以下の通りである。MAP < 65mmHgかつCI 1.8 or 2.0以下が持続する場合はドブタミンを最初に使用し、次にミルリノンを追加、十分なCIの上昇や血圧の上昇を認めない場合、ドブタミンはノルエピネフリンに変更した。ドブタミンとミルリノンを併用して使用している場合に十分なCIの上昇を得られなかった場合、エピネフリン0.04γで開始し0.1γまで滴定された。MAPは必要に応じてノルエピネフリン使用しMAP > 65 mm Hgで維持された。ノルエピネフリンの用量は0.04 γで開始し0.5γまで滴定され、低血圧がノルエピネフリンに反応しなかった場合、臨床医の裁量でバゾプレッシンは1U/Hから開始し4U/Hまで滴定された。肺動脈カテーテルでPCWPを測定し、PCWP8~12mmHgにて前負荷管理された、CIが低い場合にはPCWP10~12mm Hgまで輸液負荷を行い前負荷を増やした。手術中の大動脈遮断解除から30分たっても人工心肺からの離脱に難渋する場合には、まずIABPを挿入し、その後も離脱困難が持続する場合はECMOを追加した。ICUに移動し正常体温への回復し胸腔ドレーン排液が < 100ml/H以下となり循環動態が安定化するまで鎮静管理とし、その後人工呼吸の離脱を図った。またICUの退室は主治医の裁量で決定された。データ収集法はICUクリニカルケア情報システムを用いて、ICU入室後最初の24時間の患者データ、SOFA、SAPS/、APACHEスコアを抽出した。
VISmaxはICU入室後24時間以内のVISの最大値をクリニカルケア情報システムを用いて取得した。VISmaxは小児を対象とした先行研究を参考にカットオフ値を設定し5つのグループに分類された。CT画像は放射線科医によって脳出血、脳梗塞、縦隔炎を診断するために使用された。
結果の定義
主要評価項目:30日間の死亡率、心内膜炎、脳梗塞、脳出血、腎傷害、心筋梗塞などの死亡率と合併症。
2次評価項目:ICU内、30日、 90日、 180日、 1年の死亡率および長期ICU滞在。
心内膜炎は、術後1年以内のCT画像評価によって確認された術後心内膜感染と定義。脳梗塞と脳出血は術後24時間以内に新しい画像上の異常所見を認める神経学的欠損と定義。術後急性腎障害はICU入室後に新たに開始された腎補充療法と定義。心筋梗塞は術直後CK-MB >70μg/ml、もしくは翌日にCK-MB >100μg/mlと定義。長期ICU滞在は2.1日以上と定義した。
結果
3309人が対象となり96人が除外され、3213人を分析した。1930人(60%)がICU入室24時間でVasoactive-inotropic support(VI)を要した。患者全体のVI の平均は4であった。VIを要した患者の平均値は12であった。985人(31%)の患者がICU入室時にVIを要した。985人中130人(16%)で合併症を認めた。入室時から24H以内に157人(16%)がVIを要した。157人中56人(36%)で合併症を認めた。(図1)
緊急手術、SOFAスコア高値、SAPS高値、APACHE高値、Euro score高値、人工心肺時間が長い、VISmaxが高い患者で周術期の合併症が有意に高かった。(表1)
ROC曲線ではVISmaxとSOFAスコアはほぼ同程度、APACHE、SAPSより優れる結果となった。(図2)
30日死亡率では0-5、>45で有意差あり、心筋梗塞の発症率は0-5、5-30、>30-45で有意差あり、ICU 滞在日数では0-5、5-30、>30-45 で有意差を認めた。(図3)
ロジスティック回帰分析では緊急手術、大動脈遮断時間の延長、人工心肺時間の延長、VISmaxが高くなるほど有意に合併症の発生率が高かった。(表2)
30日死亡率では0-5、>45で有意差あり、心筋梗塞の発症率は0-5、5-30、>30-45で有意差あり、ICU 滞在日数では0-5、5-30、>30-45 で有意差を認めた。(図3)
考察
この研究でVISmaxは成人心臓手術後の予後規定する因子である可能性を示した。1年生存曲線においてVISmax が0-5、5-15、15-30は生存率に有意差なく、30-45は生存率が有意差に低下し、>45は生存率がさらに有意に低下を示した。(図4)さらにVISmaxが高い2つのグループは最初の数か月で死亡率が高いだけでなく、その後1年までゆっくりと生存率が低下し続けた。この結果から、VISmaxは成人心臓術後のICU長期滞在の独立因子であるとともに、1年生存率を正確に反映する因子であることが示唆された。先行研究でVISmaxは先天性心疾患や小児心臓手術の予後を反映する良い指標であることが強く示唆されていたが本研究では、それが成人心臓手術にも当てはまることが示された。本研究で成人心臓手術において生存率においてVISmax はAPACHEやSAPSよりもよく、SOFAと同等であることが示された。従来のICUスコアは最初はICU患者全体を網羅するスコアとして発展してきたのに対し、VISmax 循環作動薬の薬理学特性のみを対象としており、成人心臓手術において簡便で有用なスコアである可能性があり、この知見は術中の永続的な心筋損傷または臓器不全、機械的補助装置(IABPまたはECMO)の不十分な使用、高用量の循環作動薬の使用自体の生体へのダメージもしくはその両方を反映している可能性がある。