1. 基礎研究

基礎研究

琉球大学麻酔科学講座では、虚血性脊髄障害をはじめとした神経障害の機序解明とその予防と治療に関して基礎研究を続けています。

マウス遅発性対麻痺モデル

琉球大学麻酔科学講座では米国マサチューセッツ総合大学麻酔科(Ichinose Lab)と共同でマウス遅発性対麻痺モデルを開発しました(Stroke 2012)。
我々の検討ではCaspase 3ノックアウトマウスでは対麻痺を発症しなかったことから遅発性対麻痺の形成にはCaspase 3を介したアポトーシスが関与していることを見いだしました。遅発性の対麻痺は臨床でも観察されうる現象で、今後、病低生理の解明や治療法に関して検討を進めていきます。

−生体内ガス分子を用いた中枢神経保護効果に関する検討−

生体内ガス分子である一酸化窒素(NO)や硫化水素(H2S)そして一酸化炭素(CO)は生体内でシグナル伝達、抗炎症、抗アポトーシスそして低酸素耐性など臓器保護に関わる重要な効果を有していることが明らかとなっています。 我々は硫化水素に注目し研究を進めています。そのために本邦で唯一、硫化水素ガス吸入装置を有し、琉球大学医学部の薬理学講座や分子細胞生理学講座などの他の講座と連携を行い、さらにはマサチューセッツ総合病院麻酔科(Ichinose lab)とも共同研究を推進しています。
これまでの検討から、硫化水素は強力な抗アポトーシス作用を有しており、マウス遅発性対麻痺モデルを利用した検討では、対麻痺を予防できることを見いだしました。これにはToll様受容体が関与していることも報告しました。

マウス脳梗塞モデル

琉球大学薬理学講座(筒井研究室)と共同でマウス中大脳動脈梗塞モデルを利用した機序解明の検討を進めています。

−内因性一酸化窒素欠損マウスを用いた検討−

琉球大学薬理学講座との共同研究で薬理学講座が保有する内因性一酸化窒素合成酵素欠損マウス(eNOS・nNOS・iNOSトリプル欠損マウス)を用い、脳梗塞における一酸化窒素合成酵素の役割に関する検討を進めています。
その結果一酸化窒素合成酵素が完全に欠損しているマウスでは脳梗塞巣が有意に減少することを見いだしました。今後は一酸化窒素合成酵素の有無による変化をタンパクあるいは遺伝子発現の解析を行い、一酸化窒素合成酵素の臨床的意義に関して検討を進めていきます。

ラット一過性脊髄虚血モデル

これまで、琉球大学麻酔科はカリフォルニア大学サンディエゴ校麻酔科(Marsala Lab)と共同開発した一過性脊髄虚血モデル(Stroke 1997)を使用した研究を継続しています。モルヒネをはじめとしたオピオイドμ受容体作動性麻薬性鎮痛薬を投与することで脊髄運動障害が助長されることを報告してきました。

−ラット一過性虚血後のモルヒネによる脊髄障害増悪の機序解明−

様々なオピオイド受容体作動薬を用いた検討により、μ受容体作動薬が脊髄障害を増悪することを報告してきました。最近我々は脊髄障害後の神経細胞死にネクローシス、アポトーシスのみならずオートファジーも関与していることを見いだしました。オートファジーマーカー蛋白の上昇のみならずオートファジー阻害薬により対麻痺が予防できたことから今後はシグナル解析等機序解明に向けた試みを進めていく予定です。

−側副血行路の増強を志向した一酸化窒素吸入による脊髄神経保護の試み−

胸部下行大動脈手術における脊髄保護において、側副血行路の重要性が指摘されています。ラット脊髄虚血モデルを利用し、臨床でも使用可能な薬剤である一酸化窒素ガスあるいは一酸化窒素担体となる亜硝酸ナトリウムを利用し、大動脈遮断前後の脊髄血流を調整することによる脊髄神経細胞保護の可能性を探っています。

−残存した神経細胞のネットワークを利用した対麻痺症状緩和の試み−

ラット一過性脊髄障害モデルで障害を受けた脊髄では分水嶺付近にある抑制性神経細胞の減少が起こっています。抑制性神経伝達物質と興奮性神経伝達物質の不均衡が生じてしまう結果、対麻痺が発症します。これまで我々は抑制性神経伝達物質の直接投与あるいは担体の投与により対麻痺症状の緩和を得てきました。さらにカリフォルニア大学サンディエゴ校麻酔科(Marsala lab)との共同研究により神経細胞が部分的に欠落した脊髄に対して神経幹細胞移植を行い、症状の緩和を得ました。

現在我々は細胞移植によらず減少した抑制性神経伝達物質を増加させるために残存する神経細胞に軸索伸長因子を導入することで神経間ネットワークの改善による症状緩和が可能か検討を行っています。

−軟膜下投与法の開発−

琉球大学麻酔科はカリフォルニア大学サンディエゴ校麻酔科(Marsala lab)と共に新たなウイルスによる遺伝子導入法を開発しました。

現在遺伝子を導入するベクターとしてアデノ随伴ウイルスが頻用されています。これまでウイルスベクターを体内の神経細胞に導入(すなわち感染させる)ために脊髄くも膜下投与あるいは脊髄実質内投与が行われてきました。脊髄くも膜下投与は安全ではありますが部分的にしか感染が起こらないため、強力な遺伝子の導入を期待して脊髄実質内投与が行われてきました。しかしながらこの方法は脊髄に針(ガラス針)を刺入するため脊髄の損傷が避けられませんでした。

我々が新たに開発した方法は脊髄表面を覆う薄い膜である軟膜を切開し、脊髄をほとんど傷つけることなく脊髄の直上にウイルスを注入する方法です。この方法で脊髄損傷を最小限としつつ強力な遺伝子導入が可能となりました(現在、ラット、マウスさらにはブタで証明しました)。現在、ヒトへの応用を視野に入れた共同研究が、カリフォルニア大学サンディエゴ校で大型動物(サル)を使用した動物実験がはじまっています。また今後は様々なモデル動物に遺伝子導入を行う際の1つの方法として利用していきたいと考えています。

アフェレーシスによる敗血症治療の試み

敗血症・敗血症性ショックは生命にかかわる重篤な症候群であり、当院集中治療室でも集学的治療が行われております。特に日本ではエンドトキシン吸着療法をはじめとしたアフェレーシスが積極的に行われています。その有効性は明らかになりつつありますが病態が様々な臨床において正確な検討は困難です。我々はラット敗血症モデルモデルを用い、血液濾過透析療法あるいは血漿交換療法に関する検討を行っています。

−ラット敗血症モデルに対する血液濾過透析/血漿交換療法による治療−

LPS腹腔内投与によるラット敗血症モデルを用い、血液濾過透析あるいは血漿交換療法の有効性に関して検討を行っています。血中炎症性サイトカインの動態に関して検討を進めています。