1. 11月13日 宜野座先生担当

11月13日 宜野座先生担当

最終更新日:2018年02月20日

抄読会

Effect of Intralipid on the Dose of Ropivacaine or Levobupivacaine Tolerated by Volunteers
Dureau P, et al: Anesthesiology 2016 ; 125 : 474-83
 
【はじめに】
痙攣と不整脈は局所麻酔における重大な合併症である。脂肪製剤急速静注投与いわゆる「Lipid rescue」が標準的な治療として確立されてきている。本治療は1998年に基礎実験にて有用性が示唆され、2006年以降、多くの症例報告によりその有用性を確立してきた。作用機序としては「Lipid sink理論」が有力とされている。
Lipid sink理論:静注された脂肪製剤の脂質エマルションが局所麻酔の疎水性分子を抱合することにより血液中の局所麻酔薬濃度が低下する。これを「 Lipid emulsion therapy」と呼んでいる。人におけるLipid emulsion therapyの有効性を示した報告は多いが、無効を示唆する報告もある。エピネフリンがLipid emulsion therapyの効果を減弱させる可能性が示唆されているため使用時には投与量に注意を要する。(参照:成人0.01~0.1mg/回)
局所麻酔中毒による初期中枢作用と心血管系への影響とLipid sink理論を薬物動態解析シュミレーションを行い、成人ボランティアで検討した。局所麻酔薬としてロピバカインとレボブピバカインを用い、Lipid emulsion therapyとして20% Intralipidを用いた。
【対象と方法】
病歴、血液検査、ECG、脳波異常のない16人の健康な成人ボランティア(男8、女8)を対象。
【薬剤投与法】
無作為二重盲検試験。被験者は200mgのリドカインを15mg/分で静注し初期中枢中毒症状を訴えた者(初期中枢中毒症状を訴えなかった者は除外対象となった)に4回薬物投与を行った。
  • 群ロピバカイン+プラセボ
  • 群分ロピバカイン+イントラリピッド
  • 群レボブピバカイン+プラセボ
  • 群レボブピバカイン+イントラリピッド
被験者は前回投与した局所麻酔薬の影響を除外するため1週間以上間隔をあけて次の実感を行った。
・2本の末梢静脈(左右1本ずつ)を確保し片方からロピバカインorレボブピバカイン 8mg/分(最大120mg)の速度で投与した。薬物投与開始2分後より対側からイントラリピッドorプラセボ 120mlを静注した。モニターとしてECG、NIBP、SpO2モニターと8極脳波、12誘導の連続デジタルレコーダーを行った。初期中枢中毒症状を訴えた時点を投与終了とした。
【血液採取法】
局所麻酔投与対側から投与前、投与2分、5、8、12、20、30、45、60,120,240,360、480分後の静脈血採取
【心電図記録】
投与前、注入終了時、注入後1、2、5、10分後のQRS、PR、QTcを連続デジタルレコーダーにて記録。心拍数、NIBPを2分おきに記録した。
【薬物動態解析】
NONMEM Ⅵ(UCSFが開発した非線形混合効果モデル)にて4群の血中濃度解析を行った。ロピバカイン、レボブピバカインを血管外に投与した後にイントラリピッド120mlをボーラス投与した時の血中濃度解析を行った。
【結果】
・①~④までの4群間で中枢中毒発生までの投与量、投与時間の統計学的有意差はなかった。自覚症状としては構音障害(45%)、めまい(44%)の順に多かった。脳波において統計学的有意差はなかった。
・循環、心電図変化4群間ともに心拍数、収縮期圧の有意な上昇。QRS、QTcのみ4群ともに統計学上延長認めた
・血中最大値はロピバカインよりレボブピバカインが有意に低かった。レボブピバカイン分布容積が大きいためと考えられる。イントラリピッド投与群では両群とも血中最大値の有意な低下認めた。
・局所麻酔を血管内投与した場合、イントラリピッド投与群ではレボブピバカインとロピバカインの両群において局所麻酔の最高濃度を低下させたが、長時間的な効果は明らかではない。NONMENの薬物動態パラメーターにおいて薬物は中央分画の容積に比例して分配する。つまり局所麻酔濃度が高い時にイントラリピッドを投与すると効果的である可能性が高い。
・150mgのレボブピバカインまたはロピバカインとの血管外注入時に120mlのイントラリピッドをボーラスした時の血中シュミレーション。イントラリピッドによる局所麻酔薬濃度の低下は、ロピバカイン群よりレボブピバカイン群で大きく、吸収速度が速い時ほど顕著である。同量の局所麻酔を投与し2分後と10分後にイントラリピッドを投与した時の血中濃度の変化。 2分後と10分後どちらも最終的には同様の効果を示すが2分後の方がピークが低い、つまり早期投与が局麻中毒発症を抑える可能性がある
【考察】
イントラリピッド投与において中枢中毒発生までの時間の変化は認めなかった。
局所麻酔投与によって引き起こされるQRS、QTcの変化はイントラリピッド投与とは無関係であることからLipid sink効果は非常に強力なものではない可能性が示唆された。
本研究で認められた、局所麻酔の血中濃度の推移からイントラリピッド投与により最大局麻濃度の有意な減少が確認された。
局所麻酔濃度が非常に高い中毒症の時にLipid rescueが有効であることを示唆している。Lipid rescueにより心機能改善することから、 Lipid sink理論以外に心伝導系やCa調節に関する直接作用が他の動物実験で証明されている。Lipid rescueにより局所麻酔薬の最高濃度を下げるが局所麻酔のプラトーは低下させないことを認識する必要がある。
 
【本論文読了後の私見】
局所麻酔中毒はほとんどの教科書に取り上げあられ、ある程度治療法も確立している。しかし本年度、日本麻酔科学会は局所麻酔中毒の治療ガイドラインを発表した。その背景を考えてみると、超音波技術の進歩と副作用の少ない局所麻酔薬の開発によりエコーガイド下神経ブロックに興味を持つ麻酔科医が増え、区域麻酔学会など新しい領域が麻酔科の中に芽生えてきている。個人的には明らかな局所麻酔中毒の患者を診たことがない、そこで今回は個人的な知識の整理という意味も込めて最近よく使用しているロピバカインとレボブピバカインの局所麻酔中毒に関する本論文を選んだ。
局所麻酔中毒はNaチャネルブロッカーであるが血中濃度により症状が異なるとされている、低濃度では味覚、聴覚異常からはじまり、濃度が上昇すると痙攣、心停止などのより重篤な中毒症状となる。本研究で明らかになったことはLipid rescueは局所麻酔の最高血中濃度は低下させるが、低濃度で起こる局所麻酔症状(味覚、聴覚異常)はLipid rescueでは軽減しないようである。逆に考えると局所麻酔中毒が軽度のあいだにLipid rescueを行うことは重症化を予防するための効果的な投与法かもしれないと考えた。
ちなみにガイドライン上では20%脂肪乳剤(イントラリポス)使用を推奨し、初回1.5ml/kg(70kgの人では100mlを1分で静注)。その後0.25ml/kg/min(1000ml/H)持続静注となっている。当院では10%イントラリポス常備初回1.5ml/kg(70kgの人では200mlを1分で静注)。その後0.5ml/kg/min(2000ml/H)。5分後循環の改善なければ200ml追加投与考慮。全身痙攣に対してはミダゾラム、セルシン心停止:ACLS、致死的不整脈でのアミオダロン考慮となっている。局所麻酔中毒が発生しないことが一番であるが「備えあれば憂いなし」であり、日頃から局所麻酔中毒が起こっても適切に対応できるように心がけておきたい。
 

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