1. 4月9日 野口先生担当

4月9日 野口先生担当

最終更新日:2018年05月01日

抄読会

術前HbA1cと周術期血糖値の死亡率への影響
 
Diabetes Care 2018;41:782–8
 
<はじめに>
周術期は手術ストレスや侵害刺激によるインスリン抵抗性の増加によって高血糖になりやすい。高血糖はさまざまな悪影響(感染、創傷治癒の遅延、神経障害、術後の死亡率の上昇)を及ぼす。術中の血糖値が20㎎/dl増加するごとに術後合併症が30%増加するとの報告もある
ヘモグロビンA1c(A1C)は術前評価に広く用いられているが、術前のA1C値と周術期合併症との関係は明らかではない。これまでの研究は血糖値またはA1Cのどちらかと術後合併症の関係を調べたものが多く、これら3つすべてを交絡因子として検討した研究は少ない。
本研究では周術期の平均血糖値と術前A1Cとの関係およびそれらと術後30日間死亡率との関係について検討した
 
<研究デザインと方法>
ノースカロライナ州Duke大学の1999~2013年の手術記録データベースを後ろ向きに検討
・計24万6650人に計43万1480件の手術が実施
・記録が不十分(BMI、性別、術式不明etc)、術前90日以内のA1Cのデータがない、術後3日間の血糖値のデータがないものを除外し、最終的に1万3077件の手術データを採用
・周術期の平均血糖値は手術当日から術後3日目までの全測定値の平均、A1Cは術前90日以内の直近の値とし、周術期の血糖管理と術後30日間の死亡率の関係およびA1Cと死亡率の関係を検討した
 
<結果>
A1Cのデータがない症例も合わせて検討すると、術後の死亡率は心臓手術(1万2199件、30日間死亡率2.2%)と非心臓手術(16万7376件、同0.9%)とで差があったため、解析は両者を分けて行った。
1万3077件のうち心臓手術が6393件、非心臓手術が6684件であった。A1C測定のない例とA1C測定のある例を比較すると、心臓手術では術後30日間死亡率に差はなかったが(2.2% vs 1.8%)、非心臓手術では大きく上昇していた(0.9% vs 2.3%)(Table1)


 
術前A1Cと周術期平均血糖値には正の相関があった。A1C 6%から7.5%までは直線的、それ以上では平坦化した。A1Cと平均血糖値の関係は心臓手術と非心臓手術で異なり、非心臓手術の方が平均血糖値の幅が大きかった。(Fig 2)
Fig 2

術前HbA1cと術後30日間死亡率については心臓手術では相関がなく(P=0.88)、非心臓手術に関しては、有意な負の相関を示した(P=0.01)。周術期平均血糖値については、心臓手術では高血糖および低血糖が(いずれもP<0.001)、非心臓手術では高血糖が術後30日間死亡率と有意に関連していた(P=0.04)。このように周術期平均血糖値と術後30日間死亡率の関係性は心臓手術と非心臓手術で異なっており、前者ではU字、後者では線形の関係性を持っていた。また、心臓手術においては周術期平均血糖値120~160㎎/dlで死亡率が低かった。(Fig 3)
Fig 3
 

<考察>
デューク大学の電子カルテを解析した後ろ向き研究の結果、周術期平均血糖値は30日間死亡率の予測因子であることが分かったが、術前A1Cは周術期平均血糖値の予測因子ではあったが、30日間死亡率とは相関はなかった。また、A1Cと平均血糖値の関係は直線でなく、また心臓手術と非心臓手術でも異なっていた(Fig 3)。これは心臓手術を受ける患者の方がより積極的なインスリン療法を受けたためと思われる。今回の結果は周術期平均血糖値と30日間死亡率とに関連があることを示し、心臓手術では120未満と160以上で死亡率が高いU字カーブを描いた(Fig 3)。アメリカ糖尿病学会のガイドラインでは周術期血糖管理を80-180mg/dl(心臓手術は~140mg/dl)が望ましいとし、カナダ糖尿病学会は90-180mg/dlが望ましいとしているが、これらガイドラインの推奨は今回の結果からは心臓手術においては注意が必要かもしれない(特に下限)。今回の結果はNICE-SUGAR trial (厳密な血糖管理(81-108 mg/dl)が緩やかな管理(<180 mg/dl)より死亡率が高い-N Eng J Med 2009 )と似た結果であった。厳密な血糖管理で死亡率が高くなるのは低血糖による心血管イベントの発生が関係していると考えられる。低血糖は血管拡張と低血圧、交感神経系への負担を招くとされる。
術前A1Cが周術期の血糖値と強い相関があるにもかかわらず、術後死亡率とは相関がないという今回の結果は、周術期の血糖管理により術前A1C高値による死亡率の増加を打ち消す効果があることを示唆している。術前A1Cの高値は医療従事者にその患者がコントロールされていないもしくはコントロールの困難な症例であると判断させ、より迅速かつ積極的な介入をさせる可能性がある。それどころか非心臓手術においては術前A1Cと30日間死亡率は負の相関を示した。原因として極端にA1Cが低い症例や栄養状態不良患者の存在が考えられるが、術前A1Cが高い患者ほど周術期により積極的な介入がされやすいことも影響しているかもしれない。
 
<limitation>
・レトロスペクティブ研究
・術前A1Cのデータがあったのは非心臓手術患者では10分の1以下で高齢、肥満、男性に多かった
・術前糖尿病および高血糖の有無が不明
・術後30日間死亡率以外の合併症を検討していない
・CPB使用の有無、使用薬剤の種類・量、高血糖に対する治療法、他の併存合併症に関する検討をしていない
・人種、民族によるA1C値の差
・観察研究であるため、周術期の血糖コントロールが直接死亡率の低下につながるとは言えない
 
<結語>
術前A1Cと周術期血糖コントロール、術後死亡率の関係を明らかにした。術前A1Cは周術期平均血糖値と強く相関した。周術期血糖値は30日間死亡率と非心臓手術では直線的に、心臓手術ではU字状に相関関係があった。しかしA1Cは年齢、BMI、周術期血糖値で補正すると30日間死亡率との相関はみられなかった。周術期の血糖管理が術前A1Cより30日間死亡率に関しては重要であることが示唆される。
 
 
<参加者からのコメントおよび私見>
「術前にA1C値を下げるとむしろ予後が悪くなるというデータもあるので、A1Cが高いだけで手術延期を提案するのは難しい。手術をするなら周術期の血糖コントロールの方が大事、心臓手術では低血糖にも注意が必要(術後も)」
 

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