集団をみる時代においても”個”が重要
2017-02-12
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Evidence-Based Medicine(EBM)が叫ばれて久しいですが、先日のある国際シンポジウムで自治医科大学の永井良三学長が「EBMの時代になったことで、“個”を忘れる時代になってしまった」と述べたようです。集団における傾向を統計学的解析によってその偶然性を否定できた場合、それをEvidenceとし医療におけるDecision-Makingに用いる・・・これがEBMと呼ばれています。つまり、集団から得られたデータを個人に当てはめるということになりますが、これに対し永井先生は「集団について語れても、個人については何も言えない。統計的に有意差があっても、臨床的に意義があるかは別問題」と述べており、私もこの意見に大賛成です。
医学部に入学した際に最初に「病を診るのではなく人(個人)を診なさい」ということばを教えられました。この精神は医師のみならず医療関係者は決して忘れてはいけないことだと思っています。しかし、EBM時代の医療は、個人の病気を集団のデータに当てはめ、個に関わらず最も有効と考えられている処置を提供することを良しとしているようにおもえてなりません。本当にこれが良いことなのか、我々はじっくり考えなければならないと思います。
患者をもつ主治医は、患者が退院する際にその症例ごとに退院サマリーを書き上げます。この作業は、個々人の経過をサマリーとして書き上げるものですが、EBM時代に個を顧みる重要な作業であり、いわば”ちょっとした症例報告”のようなものです。麻酔科は毎日症例をこなしていきますが、この”退院サマリー”のように症例ごとに麻酔症例を振り返る機会はあるでしょうか?そのような機会は極めて少ない様な気がします。全ての麻酔症例を振り返る必要が必ずしもあるとは思いませんが、非常にうまく管理できた重症症例や合併症を呈した症例などはできる限り顧みる必要があります。それも文章化して顧みる必要があると思います。つまり、症例報告です。症例ごとに関連する多くの文献を調べ、理論的に病態や対策などを顧みることができる症例報告、これこそ”病を診るのではなく人(個人)を診る”ことができると私は信じています。
先代の須加原教授(現:琉球大学副学長・理事)が、”症例報告は患者さんへの恩返し”とよく仰っていました。患者さんから学んだことに対する恩返し、まさにその通りだと最近思うようになりました。「集団をみる時代においても”個”が重要」。このスローガン、気に入っています。