教授ブログ「まなぶろぐ」

琉球大学医学部麻酔科学教室 教授:垣花 学(かきのはな まなぶ)のブログです。

やりがいを表すキーワード”自分なりの・・・・”

2016-11-28

先週の土曜日に、ひょんなことから沖縄県内有数のリゾートホテルグループで講演をする機会を頂きました。医療界の私がホテル業界の方々に話をするにあたり、いくつかの文献を読みました。その中で、ホテルマンへのアンケートを解析した報告がありました。経験年数に関わらず「日頃からやりがいを感じている」ホテルマンの共通点は、「自分なりのサービスを喜んでもらえた」ということだったそうです。つまりそのキーワードは、「自分なりの・・・」です。ホテル業界は、医療界と同様に大型化しており、その業務にはマニュアルが必要となっているようです。マニュアルの利点は、①安全対策に有用であること、②効率化を推進できること、③誰もが同じサービスを提供できるという非属人化が知られています。しかし一方で、マニュアル以外のことを考えなくなることが欠点であり、その結果個々人の創造能力が低下する可能性があります。これはホテル業界のみならず、医療界でも同じことに直面しているかもしれません。このような状況の中で、やりがいを感じているホテルマンに共通の「自分なりの・・・」という言葉は、マニュアル社会とは異なる方向性にあり、この両立が可能なのか否かを考えさせられました。
私が働いている手術室ではポリクリ学生がたくさん手術や麻酔を見学しています。20数年前に私もこの手術室でポリクリを経験しました。外科系のポリクリでは、耳鼻科、脳外科、一般外科などで手洗いさせてもらい、鈎引きや皮膚縫合を経験させてもらいました。特に皮膚縫合は、「自分なりに」見よう見まねで糸結びをしました。しかし、技術の不十分さと比例して糸結びも術創を綺麗に閉じることができずに指導医に糸を切られたものでした。しかし糸は切られましたが、「自分なりに」皮膚縫合をさせてもらえたことに充実感を持つことができ、それは今でも覚えているほどの感動でもありました。一方、今のポリクリ学生は、手術場でいろいろなことをさせてもらっているというような機会が私の時代と比較すると極端に少ないような気がしています。
麻酔科のポリクリでは、外科と異なり手技が少ないため、なかなか実技を経験させることは難しいです。しかし「自分なりの・・・」というキーワードを考えると、それは決して手技だけに限らず、診療の中のDecision-Makingに学生の意見を取り入れてみることはポリクリ学生の「やりがい」に繋がるのではと思っています。例えば、術中の低血圧への対処をあらかじめ学生さんに考えてもらいそれを実践する(学生の意見が突拍子も無いようなことでなければ)とか、輸液量の調節を学生さんに任せてみるなどを実践してみると、「診療に参加させてもらっている」ということで満足度が高くなると思います。
教育現場において、教育を受ける側の「やりがい」を高めるために、ポリクリ学生の「自分なりの・・・」というキーワードの重要性について、講演させて頂いた私が教えてもらったような気がしました。

Priebe先生 来沖

2016-10-15

10月10日から13日まで、ドイツのFreiburgからHans Priebe先生が沖縄に滞在してくれました。Pribe先生は、Anesth AnalgのCase ReportのChief Editorとして活躍中の方です。せっかくなので11日と12日の両日早朝から30分間の講義をして頂きました。周術期の吸入酸素濃度、PEEPと肺リクルートメントの意義、Oxygen Paradoxなど、私を含め医局員にとって素晴らしい講義となりました。Priebe先生は、何度も来日していることもあり、日本人のHearing能力を考慮して聞きやすいスピードで講義を勧めてくれました。本当に感謝、Danke、Thanksです。私は、2日間の観光案内をさせて頂きましたが、何事にも興味を持ち疑問に思ったことに対しては私に質問を投げかけてきましたが、このように些細なことでも興味を持つ姿勢に感動しました。沖縄に来る前には台湾を観光、そして沖縄の後には弘前、カンボジアを訪れ、ドイツに帰国するとのことです。寒暖の激しいこの時期なので、体調に気を付けて無事にドイツに到着することを願っています。このような機会があれば、是非これからもできる限り受け入れたいと思っています。

 

済州島から

2016-09-11

九州ペインクリニック学会と交流のある釜山ペインクリニック学会(BUK Pain Society)に参加しました。いつもは釜山で開催されていましたが、今年は済州島ということで参加者も昨年より多かった気がします。日頃からペインクリニックをしていない私がなぜこの学会に参加したかというと、昨年2月にBUKのメンバーが沖縄を訪問した際にお世話したことから交流が始まり、今回の学会ではいつの間にかSpecial Lectureの座長にさせられていたからです。とはいえ、多くのBUKの皆さんと交流を持つことができ有意義な時間を過ごすことができました。今回出会った方々の中で、若手のOk先生とPark先生と多くの時間を過ごしました。彼らは、医師となって10年に満たない若手のペインクリニッシャンでした。彼らとの意思疎通は英語で行いましたが、非常に綺麗な英語(文章のみならず発音も含め)でした。米国留学の経験があるかと尋ねましたが、それは全くなし!!さらに驚かされたのは、片言の日本語も話せました。日本人の私が来るということで急遽勉強したとは思えませんでしたが、もしそうであれば全く韓国語を知らない私の準備不足を恥じることになったでしょう。韓国の皆さん(医師という職業をもった一部の方だと思いますが)は、英語を躊躇なく使いコミュニケーションを取ろうという意気込みを持っているように感じました。日韓関係にはいろいろな問題がありますが、このような点は本当に見習うべきことだと思います。日本人は英語を苦手としていますが、きれいな英語を話すことに執着しすぎており、それが逆に日本人が英語を敬遠する原因となっていると思います。今は、英語を使わなくても生きていける状況なので敢えて使わなくても良いというのも日本人の考え方だと思います。いわゆる、”外向きの韓国と内向きの日本”というところでしょうか。しかしこれからは、いやもう既に始まっているグローバリゼーションのなかでは、”外向き”の意気込みが必要です。医局員の皆さんにも、色々なことで”内向きかつ外向き”という臨機応変のある人材になってほしいと、今回の韓国滞在中に思いました。10月10日から3日間、ドイツからPiere先生が沖縄に滞在します。いい機会ですので、医局員に彼のお世話をしてもらおうと考えています。これも”外向き”への第一歩だと思います。

リオデジャネイロオリンピックが終わって

2016-09-05

リオデジャネイロオリンピックでは、前半戦のみならず後半戦も日本人の活躍に日本中が盛り上がりました。特に、陸上男子400mリレーは、久しぶりに鳥肌が立つほどの興奮を覚えました。400mリレーの日本選手は、それぞれのベストタイムが10秒台であり、9秒台の選手を並べたジャマイカ、米国、イギリスそしてカナダなどと比較するとかなり不利な状況でした。しかし、この苦境を凌駕したのが巧妙かつ完璧な日本が誇るバトンパス! 結局、日本は米国を抑え2位となり銀メダルを獲得できたのです。各々をみると成し遂げられなかったことを、個々を繋ぐことで結果に結びつけた・・、これは医療にも役立つと思いました。
医師は、患者さんひとりひとりに対し十分な医療を提供しています。麻酔科医である我々も、毎日毎日、次から次へとやってくる症例に安全な麻酔を提供しています。しかし、この次から次へと当たり前にやってくる症例を”こなし”てしまってはいないでしょうか? 例えば、先週の水曜日の症例を覚えていますか? 最近麻酔管理した腹腔鏡下結腸切除術の症例を覚えていますか? あるいは、あなたがこの3か月間に麻酔管理した症例の中で最も多く管理した手術を把握していますか? なかなか思い出せないのではないでしょうか? 「当たり前のようにやってくる症例を当然の仕事として麻酔管理する」という状況は、言い過ぎかもしれませんが「毎日食べている食事」のような感覚になってしまうかもしれません。(先週の水曜日の夕食を思い出せないのは私だけでしょうか?)
医師として、ひとりひとりの症例に全力を注ぐことは当然ですが、それが”こなす”ことになってしまうことは非常に残念なことです。では、どうすればいいのか? 陸上男子400mリレーを思い出してください。”おのおのでは成し遂げられなかったことを、個々を繋ぐことで結果に結びつけた”ということです。今、琉球大学附属病院麻酔科では、毎週金曜日の7:20から1週間の症例の”レビュー”(教室員の皆さんは「振り返り」といっていますが)を行っています。そこでは、術前カンファレンスで挙がった問題点に対する対処と結果、術中に発生した問題点などを皆で確認しながら振り返っています。そうすることで、少なくとも1週間の症例が”点”ではなく、”線”として記憶に残ります。さらに、このレヴューではPONV、シバリング、嗄声そして術後疼痛などの合併症を表として一見できますが、それぞれの合併症が頻発する症例などを把握することもできました。これは思いもよらない副産物ですが、これも”おのおのでは成し遂げられなかったことを、個々を繋ぐことで結果に結びつけた”だと思っています。
これからも”おのおのでは成し遂げられなかったことを、個々を繋ぐ”ことも視野に入れたカンファレンスを続けていきたいと思っています。

琉球大学麻酔科HPリニューアル

2016-08-13

琉球大学大学院医学研究科麻酔科の垣花です。しばらくお休みをしていた琉球大学麻酔科のHPを、医局員の林先生が中心となりリニューアルしてくれました。今年度は4名の新たな仲間たちも増えましたし、新たな麻酔科のスタートという意味も込めてのリニューアルです。多くの皆さんがこのHPを閲覧してくれることを楽しみにしています。
同じ時期にリオデジャネイロオリンピックが開催されました。体操、柔道そして水泳競技での日本人の大活躍に驚いています。なぜなら、前回、前々回のオリンピックではこれほど活躍をしていなかったので・・・・。この日本人の大活躍について、ある評論家が「いよいよ日本人が本気を出してきたのでは・・・」と語っていました。身体能力のハンディはありますが、それを科学的なトレーニングにより鍛えあげ、それにもともと持っている勤勉さ、直向きさ、素直さを前面に出した練習の成果が今回の結果に繋がっているということでした。
日本人特有の「勤勉さ、直向きさ、素直さ」が武器になるということ・・・、個人的には「なるほど」と思いました。
琉球大学医学部附属病院の手術件数の増加は著しいものがありますが、医局員のみんなの「勤勉さ、直向きさ、素直さ」さらに加えて「持ち前の明るさ」によって非常に効率よくこなしてくれています。私は、ただただ感謝するばかりです。
そんな医局の日常や個人的な雑感を、この「まなブログ」で発信していきたいと思います。
皆さん、宜しくお願い致します。

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