教授ブログ「まなぶろぐ」

琉球大学医学部麻酔科学教室 教授:垣花 学(かきのはな まなぶ)のブログです。

"One for All, All for One"の精神

2019-10-22

久しぶりの“まなブログ”への投稿です。この1ヶ月のラグビーワールドカップの盛り上がりは、何といってもJAPANの大活躍のおかげです。特にスコットランド戦の後半残り20分の攻防(ほとんど守りであったが)は痺れました。全ての選手が全力で相手にぶつかり、全力で押し込み、全力で走り、全力でラグビーボールを奪いに行く姿勢に心を打たれました。

ラグビーには、“One for All, All for One”という言葉があります。それぞれのポジション(フッカー、プロップ、ロック、フランカー、ナンバー8、スクラムハーフ、スタンドオフ、センターバック、ウィング、フルバック)にはその役割がはっきりしておりそれぞれがその役割を担うことになりますが、実際にはポジションとは別にお互いの役割をカバーし合うということも意味していると思います。“俺はフッカーだから、トライはウィングに任せる”などということはあり得ないのです。

最近、国の政策として“働き方改革”が掲げられていますが、医療界にもその波が押し寄せています。医師の“働き方改革”の手段としてコメディカルの活用が推奨されています。つまり、医師でなくても出来ることはコメディカル(看護師、準看護師、臨床工学士、臨床検査技師など)に任せ、医師の負担を軽減するということです。これはラグビーに例えると、医療界の各ポジションへの仕事の分配(Work Sharing)によりそれぞれの役割をはっきりさせることです。この状況で注意が必要なのは、役割をはっきりさせた場合に果たして医療が円滑に進められるのか、最終的には患者が損をしないのかということです。“これは臨床工学士の仕事だから、医師の私は関係ない”ということになってはいけないと思います。もちろんWork Sharingは進めるべきことではありますが、絶え間なく(24時間、365日)全てのコメディカルや医師が病院にいることなど現実的にあり得ません。私の考え(私見)としては、コメディカルが何らかの理由により居ないことにより患者の健康が脅かされる可能性がある場合、それを出来る範囲で医師が補うためにある程度看護師の仕事もでき、臨床工学士や臨床検査技師などの知識も持ち合わせるべきであると考えています。

琉球大学医学部附属病院麻酔科では、麻酔器の整備(ソーダライムの交換、フローセンサーや酸素濃度計の交換など)、人工呼吸器や人工透析回路の組み立て、血液ガス分析装置の電極交換、グラム染色やROTEMなどの検査、MEP電極の装着や測定等、麻酔科医局員ができるような教育を後期研修医に提供しています。これによりお互いをカバーでき、結果として患者が損をしないという状況を提供できていると思っています。

これから医療界に押し寄せるWork Sharingの波の中で、“One for All, All for One”の精神は決して忘れてはいけないことだと私は思います。ラグピーJAPANの活躍をみてそう思いました。

“最近の若い者は・・・・・”

2019-03-14

いかなる生物も誕生時から肉体的にも精神的にも成長し、さらに主に肉体的に老化し死に至ります。精神的な部分については、体が衰えても精神的にしっかりされた方も多くいらっしゃることから死ぬまで成長を続けられると考えられます。このことから、誰しも肉体的にも精神的にも未熟な時期があることは当然なことでしょう。では、ベテランの方々が常々口にする “最近の若い者は・・・”というフレーズですが、そもそも当然若者であった時期を過ごしてきたベテランの方々は、かつてその先輩方にどのように表現されていたのでしょうか?

 先日、琉球大学医学部附属病院臨床研修センター主催の「RyuMIC指導医養成セミナー」に、責任者として参加してきました。このセミナーでは、はじめに受講生(卒後7年目以降の指導医)に対し「研修医指導における悩み」をKJ法という手法を用い表現させています。私はこの十数年にわたりタスクあるいは責任者として関わってきたので、「研修医指導における悩み」を経時的に見ることができるという貴重な経験をさせてもらっています。今年も悩み多き指導医が持つ「悩み」を眺めていると、「雑用を嫌がる」、「早く帰りたがる」、「研修医にやる気が無い」、「モチベーションが低い」など、研修医に対する“悩み”が例年通り多くみられました。その時、ふと気づいたことがありました。この指導医の“研修医に対する悩み”ですが、指導医養成セミナーが始まったころの十数年前から「研修医にやる気が無い」、「モチベーションが低い」などは多く見られました。つまり、ある種の普遍性を持っているということでしょうか? 考えてみると、今年の受講者の殆どが十数年前には研修医だったはずであり、つまり彼らも研修医の頃は、この指導医養成セミナーに参加していた指導医から「やる気が無い」、「モチベーションが低い」と思われていたということです。そこで私のほうから今年の受講生に、「皆さんが研修医の頃の指導医も、あなたがたに同じような悩みを持っていたのですが、皆さんが研修医のときに「モチベーションが低かった」とか「やる気がなかった」という方はいらっしゃいますか?」と尋ねたところ、そのような方は誰もいませんでした。個別に尋ねてみても、「やる気はあった」し「モチベーションが無いわけではなかった」という答えでした。

 これは、かつて研修医であった指導医がその時代から成長をしたということ、あるいは研修医の頃の若者が自分の「やる気」や「高いモチベーション」を表現することが不得手であり指導医に伝わっていない可能性が考えられます。いずれにしろ、研修医も決して「やる気がない」わけではないし、「モチベーションが低い」わけでもないということのようです。我々指導医としては、個人差はあるにしても彼らの持っている「やる気」や「モチベーション」を引き出してやることも仕事のひとつだということでしょう。

“最近の若い者は・・・”と思っているあなたは、かつてはそのように思われていたということに気づいていますか?

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