麻酔”道”
2017-07-02
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久しぶりのブログ更新です。ここ最近の話題として、若い方々の活躍に目覚しいものがあります。例えば、男子卓球界の張本選手(13歳)は、世界ランク上位の選手に堂々と戦いを挑み、多くの勝利をおさめています。これまであまり注目されていなかった“卓球”に、光が当たりその競技人口も激増しているようです。また、将棋界の藤井4段(14歳)は、今や時の人になっており、連日メディアに取り上げられています。小学生の頃、将棋にはまった時期があり、将棋のプロを目指す“奨励会”について情報を集めたこともあった(結局、才能がまったくなかったので早々にあきらめました)ので、個人的にも興味をもって眺めています。私も小さい頃将棋道場に時々通い、そこにいる大人たちと将棋を指していた頃がありましたが、藤井君は毎日道場に通い将棋にのめりこんでいったようです。藤井君が通っていた将棋道場には、このような言葉が壁に張られているそうです。「弱者をなめず、強者にひるまず、自分に厳しく」・・・、これは柔道や剣道などの“道(どう)”に共通の心構えであり、将棋“道”にも当然当てはまるものです。
この言葉を見たときに、琉球大学医学部麻酔科の初代教授 奥田佳朗先生が当時の朝のカンファレンスで私たちに話した内容を思い出しました。「ほかの人の麻酔を観て、“こいつの麻酔はうまい”と思ったら、実力はかなり離れていると思いなさい。“俺はこいつと同じくらい”と思ったら、相手のほうが格段にうまいと思いなさい。“こいつは俺より少し下手だ”と思ったら、相手と同程度と思いなさい。」という内容でした。これは、「弱者をなめず、自分に厳しく」に相当する、まさに麻酔“道”だと認識しました。
では、麻酔“道”のなかで「強者にひるまず」は、何に相当するのでしょうか?これは私個人の考えですが、この「強者」とは麻酔管理困難症例に相当すると思います。いろいろな合併症を持って、しかもその合併症が十分にコントロールされていないような症例です。このような症例があたると、いろいろ考えなければいけないし、準備(教科書や文献を読む、機器の準備など)も多くなります。麻酔導入も恐る恐るしなければならないかもしれません。維持も油断できず気を張って麻酔管理をしなければなりません。しかし、自分の実力を信じ、理論に基づいた計画と周到な準備で立ち向かうこと、つまり「強者にひるまず」です。つまり、藤井4段が育った将棋道場に張られている「弱者をなめず、強者にひるまず、自分に厳しく」は麻酔“道”に通ずるものであり、プロの麻酔科医として持たなければならない意識だと思います。
これまでは、「最近の若者は・・・・」というフレーズはNegativeなイメージでしたが、昨今は「最近の若者は大したものだ」というPositiveな意味合いになってきました。彼らの活躍で、久しぶりに奥田先生の教えを思い出しました。