教授ブログ「まなぶろぐ」

琉球大学医学部麻酔科学教室 教授:垣花 学(かきのはな まなぶ)のブログです。

米国式臨床研究と地方大学式臨床研究

2017-10-29

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歴史ある米国麻酔学会、いわゆるASAが初めてボストンで開催されました。エーテル麻酔下の手術を公開したエーテルドームがボストンのマサチューセッツ総合病院(MGH)にあることから、米国の麻酔の発祥地として知られているボストンでのASA開催が初めてであるということは少し驚きでした。ちなみに、MGHの1日の手術症例数は、600症例以上だそうです。
さて、ASA学会で気づいたことは、米国から発表される臨床研究のn数が驚くほど膨大であることです。日本では数百から数千症例を対象としたRetrospectiveあるいはコホート研究であるが、米国では数万から数十万症例といういわゆるビッグデータを対象とした研究でした。これだけの症例を集められるシステムとそれを解析できる人材など、臨床データを解析する文化が日本より根付いていると強烈に実感させられた。これは絶対に勝てない・・・、と。しかし、「“同じことをしていては”、絶対勝てない。」というのが私の本音です。
 琉球大学からは、当講座初の無作為対象研究(RCT)の結果が採択されポスター発表しました。この研究では、37症例(対照群:19例、治療群18例)で明らかな統計学的有意差が認められたという報告でした。この発表には、ASAでPress Release)されるほど注目された発表でした。そもそもこの研究は、日頃の臨床から気がついた現象をRCTで証明したということであり、つまり闇雲にやられたものではなく“狙い”を定めた研究でした。
 ビッグデータの解析は確かに凄いという印象を受けますが、我々のような地方大学ではむしろ日常臨床に目を向けて、その中で気がついたことを臨床研究で証明することが現実的だと思いました。むしろ、1日に600症例をこなさなければならない米国の病院では、1例1例から何かに気づき研究を進めるということのほうが難しいのかもしれません。今回のASAに参加して、我々の方向性がぼんやり見えてきたような気がします。
 
ASA Press release
https://www.asahq.org/about-asa/newsroom/news-releases/2017/10/acetaminophen-may-help-reduce-postoperative-shivering
 
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